【驚愕】8月10日発表のWASDEの収穫量予測の真の意味ー【非会員限定】コーン先物情報ブログ
昨日、WASDEの単収予測に対して、そんなわけないだろうというスタンスで記事を書いた。WASDEの予測は過去第3位豊作を予測しているが、足元の作柄は決してよくなく、とても豊作予測なんて言える状況ではない。これは間違いがないと思う。
(前回の記事) naohirokatoh.hatenablog.com
しかし、米国農務省としては、「本気の予測」でこの予測を発表しているのだろう。実際、8月の予測と最終的な収穫量の差異は1996年以来0.6%とも言われており、かなり信頼されている情報なのだ※。ただただ「絶対違う」と言って片づけてしまうような情報ではない。
※参照
Corn market likely to face massive crop after surprise USDA forecast - The Western Producer
僕が何か見逃していることがあったのかもしれない、と考え直し、米国農務省が何を根拠にこの予測を出しているのか、改めて理由を精査していきたい。
理由1 不作と考えるのはまだ早計
7月の受粉期の高温によりコーンの作柄は急速に悪化しているが、8月の気候は非常に良いため、コーンの作柄は回復する余地がある、という意見がある。しかし、やはり受粉期のクロップに与える影響は高いことは間違いがなく、この時期の高温による悪影響は相当あるとみていいと思われる。アメリカのニュース記事を読んでも、この予測をそのまま受け取っているケースは非常に少ない。(コーン相場は予測を価格に反映しているが)
もうひとつの理由を見ていきたい。
理由2 コーン産地南部の作柄が非常にいい
あまり目が行っていなかったのだが、まず、この図を見てほしい。注目はコーンベルト以外の地域。
(FARM BUREAUによるUSDAの作柄情報を参考にした予測)
この図は2016年と2017年の単収を比較して、2017年はどうなるか見たものである。ちょうどコーンベルトに赤(単収減)が並び、コーンベルト以外は軒並み青色(単収増)となっている。ポイントは、この図が、過去最大の豊作であった2016年と比較したものであって、5年平均ではないということ。
ちなみに、作柄についても改めて見てみよう。
こちらを見ても、コーン産地の南部は2016年よりも軒並み10%以上作柄が良い状況だ。コーンのメインの産地ではないとはいえ、この影響はゼロではないだろう。米国農務省はこの状況をみて、高めの予測をしている、と思われる。
では、この作柄が良さそうな南部の影響についてじっくりみていきたい。
…、の前に簡単にまとめ
WASDEの予測が多くの人の予測に反して大幅に高くなった理由について簡単にまとめると、
理由1については、納得できないが影響はゼロではないだろう、とは言える。でも、
理由2については、南部の作柄が良いとしても、それが、どれくらい影響があるのかがわからない。まだまだわからないことが多い。実際のところ、米国農務省の作柄状況は、たいてい18州のみであり、南部の州の大半は18州には該当していないのだ。そのため、通常の作柄状況では、南部の州の状況はほとんど見えない。
より詳細に状況を把握するため、「机上の空論」といえるほどの仮の計算をして傾向を見ていきたい。
計算の流れ
① World of Cornにて記載のある、州別の2016年の作付面積、単収、収穫量を抽出する。
② WASDEにて予測されている州別の単収を抽出する※
媒体⇒Southern States See Double-Digit Corn Yield Gains | Agweb.com
※ 全州の単収予測が抽出できなかったため、抽出できた29州について行う。
③ 2017年の作付面積が2016年と同様と仮定して、2017年の収穫量予測を逆算する。
④ 対象の29州の2016年、2017年の収穫量合計を計算する。
⑤ それぞれの合計から、仮の29州単収平均を算出する。※
この計算方法では、今年の州別の作付面積がないので正式な予測にはならない。しかし、僕たちが知りたいのは、あくまでも傾向値である。傾向値であれば、上記の計算でも十分に状況が分かるものと思われる。
計算結果
下記が計算結果である。(これはあくまで仮説であるのでご注意を)
この表は主要産地29州に限定した予測である。詳細に見ていきたい。まずは、単収を見ていく。
計算上の単収予測は、
2016年 174.8 (実際:174.6)、
2017年 169.6 (予測:169.5)
差 -5.2 (-5.1)
となる。29州における2016年と2017年予測の単収の差は-5.2のみとなる。これを見ると、今回の米国農務省の予測は妥当だと言うしかない。米国農務省の州別の単収予測も一見した限りではそんなに大間違いではないと思われる数字が並んでおり、結構合っていそうな感じだ。そして、計算結果は米国農務省予測とそんなに大差ない数になる。
今回上げた2017年の収穫予測は29州の予測の合計であることと、2017年の予測作付面積を加味していないことから、調整が必要だ。ただ、29州で全体の98.86%に相当するため、その計算は省く。ようは、WASDEのデータがそう間違いでないと思われるということだ。
ここまで計算してくると、そんなにWASDEの予測とは大きく外れないため、根拠もありそうだ。
南部の州の影響について詳細に見る
下記表を見てほしい。(順位とは州別の収穫量順位のこと)
この表の2017年産の収穫量は、2016年の作付面積を元にした仮の数字ではあるが、こちらで十分傾向が分かってくる。
この表の一番右列を見てほしい。
まず全体を見ると2017年が2016年より
減少 ⇒ 12州で-722百万ブッシェル
増加 ⇒ 17州で+277百万ブッシェル
となり、-445百万ブッシェルとなっている。
実は、2017年に「2016年よりも単収が増加する州」の数は豊作であった2016年よりも5州多いのだ。
更に詳しく見ていく。
収穫量の減少幅が大きな州はアイオワ(1位)、イリノイ(2位)、サウスダコタ(6位)、ノースダコタ(11位)と下位10州を収穫量が多いコーンベルトの州が独占している。コーンベルト内が高温であっただけある。
逆に、収穫量の上昇となっている州はネブラスカ(3位)を除いて10位未満の州がずらっと並んでいる。そして、増加幅はたかだか10-40百万ブッシェル程度と微量。しかし、「塵も積もれば、、、」で、増加分がアイオワ州の減少幅を上回っていて、完全に相殺をしている。これを見ると、想定以上に南部を中心としたコーンベルト以外の地域の影響が大きいと言える。
この南部の豊作があって、コーンベルトの不作を補い、最終的な収穫量は豊作としているのだとわかる。
まとめ
昨日はWASDEの予測はおかしい、と書いたのだが、よくよく調べると、そんなに大間違いではないということが分かってきた。確かに、コーンベルトの作柄は悪いのだが、それ以外の地域が十分すぎるほど収穫量を補っていたのだ。
ここまで調べてきても、まだまだ、WASDEが発表している各州別の単収が本当に妥当な物なのかどうか、等、不明な部分は残るものの、そんなに変な予測ではない、ということは断言できる。
今後の天候や干ばつ状況についても少し書くのだが、共に干ばつは改善に向かっていることを示すような情報となっている。
アメリカの干ばつの状況は、「United States Drought Monitor > Home」を参照してほしいのだが、8月8日の状況はまだまだコーンベルトの干ばつは続いているものの前週よりも改善している。
今後の天候は、「Google」で各州の天気を調べてみればわかるが、これから1週間についても少しは雨がある予想が出ており、干ばつがさらに弱まることが予測される。
これらの状況を踏まえると、今はそんなに悪い情報がない、と言える。しかし、コーン相場が下がったことを受けて、アメリカ産コーンの需要が増える可能性は大いにあるので、今後も価格が下がり続ける、ということにはならなそうだ。
引き続き、情報の注視が必要なことに代わりはない。
(これまで、毎日記事を書いてきたが、今後は毎週1~2記事の更新に変える。読んで頂いている方には申し訳ない。)
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